”生と闇を司る者、亡き王国で12人を生む。 　生と闇を司る者、新たな名と称号を得る。 　死と光を司る者を止める手段として剣へと変わる――” Yulca - 05 - 壮絶なる痛みの叫び声が静寂の街に響き渡り、 冷たい周りの白い壁に吸い込まれて行く。 もはや立つ事もままならず両手を付いても己の体を支えられない。 そんな気を失いそうな膨大な激痛の時間を経て、 シエルエンテから12の形が生み出された。 それぞれは男であったり女であったり幼子の姿もある。 彼等は何が起こったか理解出来ない様に、 不思議そうに自分の手をジッと見たり、握ったり開いたり。 「これ、は……」 12人の誰かが声を発した。 それに次いで次々と声がざわめき始める。 だがシエルエンテにはそんな声はやはり聞こえず、 今だ肩で息をしながら聞いてくれるであろう彼等に声を掛けた。 「俺の呼びかけに応えた12の記憶。 　その体はお前達の器。それを動かすのは俺の魂とお前達の想い」 「体……？これが体……」 物珍しそうに自分の体を触っては目を丸くする癖っ毛の青年。 「俺に声は聞こえない。だからお前達が何を言ってるのか分からない。 　だから言う、俺に従え」 「従え？なぜ私が貴方如きに従わなければならないの。 　私を誰だと思っているの？私はあの有名な――」 気の強そうな声で不満の声を上げる髪の長い女性。 彼女は今にも襲い掛かりそうな攻撃的な態度で、 シエルエンテを見下げて指を差してまだ何か言っていた。 「”なぜ”と言っているのか？ 　その返事は”俺の呼びかけに応えた”からだ。 　何か強い想いを残して死んだのだろう。だからそれを叶えてやる」 鉛のように重い体をゆっくり起き上がらせて、 シエルエンテは彼等の顔を見渡し、そして一人に指を差した。 体に慣れていないのか立ち上がる事が出来ず、 座りこんでいる茶色い髪の青年にと。 「お前は天秤に宿っていた強い想い。 　体はすぐに慣れる。名は……そうだな、ルキノス」 ルキノスと名付けられた青年は首を傾けてシエルエンテを見上げた。 元々ただの物だった彼は当然ながら言葉も理解出来ていない。 まさしく生まれたての赤子と同じであった。 次にシエルエンテは先ほどの女性を示した。 ジェミロスと名を付けられたが、彼女は元は人間。 当然ながら名前を持っている。 それもかつて広く知れ渡った有名な名が。 彼女はまた何かを言っているようであったが、 シエルエンテは次々に名前を付けて行って最後に自分をその指を向けた。 「俺の名はシエルエンテ。生と闇を司る。 　お前達は一度死に、新たに生を受け、新しい名を付けた。 　だから俺も新たな名を付けよう。 　世界の名から取りセレ＝シエルエンテと」 その名を聞いてジェミロスはたじろいた。 彼女の生前は東の大陸全土にその名が知れ渡る程の魔力の持ち主で、 とある国の援助を得てある実験を繰り返していた。 シエルエンテの名やユルカの名も当然知っている。 「お前が魔の王か。いいわ、ならお前に従ってあげる。 　私の望みは最高の魔力生物を生み出す事。 　必ずその力で叶えて貰う！いいわね！」 「願いは叶える」 12人全てが承諾し、ここに魔王とその僕12人が誕生した。 シエルエンテの聞こえなかった耳も彼等を通じてまた声が届くようになる。 Yulca - 05 - 終わり