”己が己でも、彼等の魂は自我を持つ。
　己が己でも、彼等の魂は意志を見つける。

　一つの魂は完全に分かれ、決別を迎える――”




Yulca - 02 -




ユルカの一言で今まで動いていた全ての人が、
糸の切れた人形のように次々と倒れていった。

子を守る母親も果敢に立ち向かう青年も、
残虐なるまでに剣を振りまわしていた中年も、
微塵も動く事無く静寂の衣に包まれている。
そこで動く者はもはやユルカとシエルエンテしかいない。

ユルカは目を細めると次は天に向い両手を翳した。
かつて澄んだ青色だった空は今は血が飛び散ったように赤黒い。
そんな空にユルカは静かに言葉を放つ。



「光で持ってお前達を許そう」



辺りが青白い光で包まれた。
それは何処となく冷たいような感じで、
だがよくよく感じてみると暖かさがある感じで。

光は世界の全てを包み込み、
息絶えた人間達も変わり果てた大地や空も、
まるで雪が融けて行くかのようにじんわりと光と共に消えて行く。


そして闇が世界を支配した。


しかしそれもつかの間、
再生するかのように光は再び生まれ、
その光から生えるように大地も空も風も息吹きを返し、
世界は争う以前の美しい姿に戻っていた。



「何て事を……」

「どうせ人はまた生まれる。
　そしたら私を崇めざるを得なくなるように導けばいい」



背を向けたユルカの白い衣装が風に揺れる。
ユルカの赤い瞳は決意を固めていた。
もうシエルエンテが何を言っても聞き入れる事はないだろう。



「シエルエンテ、お前にはもう頼らない。お前との繋がりを断ち切る。
　目が見えずとも私が世界を守ってみせる」

「待て、ユルカ」

「世界の半分はお前に貸してやる」



そう言うと迷いなく決別の一歩を踏み出した。

ユルカから世界の全てが闇へと消え、
シエルエンテから全ての声が静寂へと沈んでいった。

振り返る事なく自分から遠ざかって行くもう一人の自分。
長い長い時を共に生きて来た自分とこんな別れになるとは、
予想もしていなかった。



「ユルカ……」



シエルエンテは悲しい色を浮かべて背を向け、
何も言わず東へと歩き出した。
















Yulca - 02 - 終わり

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