新しい国はユグドラシルの遥か上空。
懐かしき世界は完全なる美。

世界は冷たい手に守られて輝きを放つ――



Yulca - 10 -
世界は美しい。 完全とはいかないまでもそれに近い統一された美がある。 自らの手で守る世界。 もう人達に壊される事もない世界。 それを絶対的にするにはまだユルカにはやるべき事が一つあった。 ユルカが村を出て早数年。 ユルカはクルシスと共にユグドラシルの下へと来ていた。 ここで最後の仕上げをする為に。 「いいな、クルシス。失敗は許されない」 「はい、父さん」 絶えず吹く風に二人の髪は揺れ、 その中でクルシスは小さく頷いて目を閉じた。 ユグドラシルに降り注ぐ青い光の雨。 それに反応するかのように葉は一斉にざわめき、 風はより一層ユグドラシルもユルカもクルシスも取り巻いた。 ユルカはそれを捕えるように手を翳すと、 フッと風は止まりざわめきが止む。 「さぁユグドラシルを糧とし生まれよ!」 途端に地震が起きた。 立つ事もままならない程の揺れに、風はつられて大きくうねり、 降り注ぐ光の雨が大きな光で包まれた。 その光の衣もやがて収まり静寂は訪れる。 ユルカは肩で息を付くクルシスの腕を掴み、初めてその翼を広げた。 美しい青色の透明な翼を。 しかしユルカの翼に左はない。 しかしクルシスにはそれがある。 ユルカはクルシスに翼を広げさせた。 ユグドラシルの遥か上空に出来た新しい大地へと行く為に。
Yulca - 10 - 終わり

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