死より生まれた息子はクルシス。
生の力より生まれた恩恵を受ける。

死の神は得る、己には無き力を――




Yulca - 09 -




クルシスにはユルカには無い力があった。
死より生まれた生の力が。
クルシスが手を翳せば枯れた花も蘇り、
死したる者も長く時間は掛かるけれども蘇らせる事も出来る。
その生の魔力はささやかではあったが、
ユルカにとっては無くてはならない力であった。

だけれども。
ユルカの心は今や憎悪の方へと傾いていた。
あれだけ愛していたのにもはや愛情の欠片もない。

クルシスは自分の半身、世界を見る目の変わり。
しかしクルシスは世界以外にも無意識にそれをユルカに見せていた。
他の誰でもない、ユルカ自身の姿を。

光に映える長く白い髪。
クルシスとシエルエンテが居なければ何も映らない赤い瞳。
そして決別の日に無くしてしまった表情。
クルシスが己を見せれば見せる程にユルカは心を傷付けた。

なぜこんなにも己には何もないのか、
なぜこんなにも己の姿は無様なのか、と。



「私に触れるな」



手に触れようとしたクルシスの指は冷たい言葉で動きを止めた。
もう何度同じように振り払われて来たのだろう。
その度にクルシスは”はい”と返事をして、また傍に控えていた。

クルシスにとってユルカは唯一の父親。
ユルカにとってクルシスは唯の生の魔力の源。

彼を無くすのは簡単な事であったが、
無くしてしまえば元にも戻らないし、生の魔力も残らない。
それ故にユルカは生かした。
唯その為だけに。

それでもクルシスは父を愛した。


















Yulca - 09 - 終わり

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