命を奪って生まれた神の半身。 死の先に生み出された神の息子。 どれだけの命を奪っても神は何も感じない。 神は死を司り光で救う存在―― Yulca - 08 - クルシスを生み出して数日。 ユルカの心の乱れは嘘のように安定していた。 村はますます恵みを受け、世界は更に繁栄して行く。 神としてのユルカの噂は西の大陸に浸透し、 神を崇める神殿が各地に建てられて、ユルカの計画は着々と進行して行った。 ユルカはいつものように椅子に座りクルシスの声を聞いていた。 何やら楽しげに笑う息子の声。 クルシスはユルカの事を父と呼んで、 まるでユルカの気持が分かってるかのように、 いつも傍にその身を置いていた。 「父さん、頭なでて」 そう言われればユルカは手を伸ばした。 だが声のする方へ手を伸ばしてもクルシスに触れられない。 その度にユルカは手を引いて”また今度”と理由を付けた。 何度も繰り返せばクルシスも気付く。 そうでなくてもユルカの半身なのだから気付かなくても感じる。 クルシスはユルカの目の前に立ち、今しがた引いたユルカの手に触れた。 冷たく、何の温かさもない。 「……お前は見えるのか？」 「見えるよ」 「生の魔力のせいか？何にせよ見えるならいい」 「父さんは……見えないんだね」 「お前がいるなら私は見えなくても構わない」 静かに微笑み、触れていたクルシスの指を包む。 ユルカは心からそう思っていた。 クルシスがいるならそれで充分だと。 他に望む事はないと。 しかしクルシスは目の見えない父を悲しく思っていた。 世界はこんなにも綺麗なのに、 それを見る事が出来ないのがとても心が痛かった。 そして出来る事ならその目で自分を見て欲しいと。 その赤い瞳に映して頭を撫でて欲しいと。 それは季節が何度巡ってもずっと変わらないでいた。 長い時間の中でクルシスの体も成長する。 まだ多少幼さは残っているものの、 その姿は誰が見てもユルカと同じであった。 「父さん、僕は父さんの半身。 　父さんの記憶も、全部ではないけれど僕の中にもある。 　だからシエルエンテの事も知っている」 「あれの話はするな」 「彼の眼を通して見た世界も僕は知ってる」 「だから何だと言うのだ」 「だからね、父さん。今度は僕が目になるよ。 　僕の眼を通して世界を見て」 クルシスは笑った。 愛する父の為に。 最初こそ断ったユルカだったが、 クルシスの懸命な願いにその申し出を受け入れた。 息子の眼から見る懐かしい世界。 だが再び見えるようになった目のせいで、 ユルカの心はまた激しく揺らぐ事になる。 Yulca - 08 - 終わり